2010年7月20日火曜日

ネヴァー・エンディング


ネヴァー・エンディング

<ネヴァー・エンディング>は、倉本聡・作、杉田成道・演出のTVドラマ『北の国から』を思い起こさせるようなフォーキーなギターの音色とエルヴィスの丁寧さが誠実さを表現して、やさしい空気をかもし出すミディアム・テンポの楽曲だ。

バディ・ケイ、フィル・スプリンガー共作。レコーディング・パーソネルはギター・スコティ・ムーア、ピアノ・フロイド・クレーマー、ドラムス・D.Jフォンタナ、マーレー・ハーマン、コーラスはジョーダネアーズ。<はてなきハイウェイ>で渋いピアノが光りまくるフロイド・クレーマー、ここでも快調だ。

エルヴィスは夜空を風に乗って飛ぶカイトのように歌う。<今夜はひとりかい>を連想させる、少しカマトトぶったパフォーマンスがご愛嬌だが、バックコーラスがスパイシー、忘れられないギターとビター&スイート2乗な雰囲気に彩られて、海辺と満天の星が降り注ぐ情景描写はさすがにエルヴィス・プレスリー。63年5月26日録音。

歌詞だけ見てると加山雄三かと思うような、日本でもフォークとポップスかけあわせたような<空に星があるように><バラが咲いた>というような曲もあるが、そのお手本のような曲だ。なんていっても東京五輪音頭/高校三年生/こんにちは赤ちゃん/Paul & Paula/スキヤキ/が流行していた年ですからね。アメリカ追いかけて平和まっしぐらですよ。

1963年のエルヴィス・プレスリーは若く独身のカリスマ。<ネヴァー・エンディング>ではうっとりさせてやるぞという意気込みが感じられるくらい甘い。だけど誠実さは隠せない。

日が沈む頃、海辺におりて
はるか彼方を見つめてごらん
視界に広がる果てしなき海は
君への愛によく似てる

君に、終わることなく
永遠に続く、終わることなく、永遠に続く
終わりのない愛を捧げよう
(いつまでも続いていく)

真夜中に空を見上げて
星が照らす景色を眺めてごらん
天国に限界がないように
君への愛も限りない

君に、終わることなく
永遠に続く、終わることなく、永遠に続く
終わりのない愛を捧げよう
(いつまでも続いていく)

終わりのない愛を捧げよう
(いつまでも続いていく)
終わりのない愛を捧げよう
(いつまでも続いていく)
終わりのない愛を捧げよう
(いつまでも続いていく)

 エルヴィス・プレスリーが<ネヴァー・エンディング>を録音したこの時期、若い大統領に引率された明るく元気な全米ではポール&ポーラの<ヘイ・ポーラ>、リトル・ペギー・マーチの<アイ・ウィル・フォロー・ヒム>、ボビー・ヴィントンの<ブルー・ヴェルヴェット>、坂本九の<スキヤキ>、ジャンとディーンの<サーフ・シティ>などメロディ・ラインの美しいポップスが相次いでチャートナンバー・ワンになっていた。

 この年(63年)の同時期には、『OO7/危機一発(ロシアより愛をこめて)』が大ヒット、米海軍の原子力潜水艦が日本寄港で問題になっていた。

 女王陛下と007の国イギリスでは前年<ラブ・ミー・ドウ>でメジャー・デビューしたビートルズが、エルヴィスよりビッグになる夢をこめて、4人が12時間1発録りの全力疾走で仕上げた最初のアルバム『プリーズ・プリーズ・ミー』と『ミート・ザ・ビートルズ』を発表、この年、アメリカの評価は低かったがヨーロッパでは爆発的な人気を獲得していた。ジャマイカがイギリスから独立した年でもあった。

 ビートルズはエルヴィスから学んだ誠実さで同じように応えた。ファンが雨に濡れていたら、自分たちも雨の中に立った。コンサートでは深々と頭を下げた。エルヴィス同様にシングルヒットはアルバムに入れないことを守った。ファンに同じものを二度買うようなことをさせたくなかったからだ。アルバムには14曲を用意した。エルヴィスへのいい加減同様にアメリカのキャピトル・レコードは無視して、曲数を2~3曲減らす、ダブらせることをしたが、ポールは「ボクたちのやったことじゃない」と怒り、イギリスでは誠実に守られた。

 <ネヴァー・エンディング>はそんな年に60年録音の<サッチ・ア・ナイト>のB面としてリリースされた。すでにフロンティア魂のケネディは亡く、明るく元気なアメリカも憂鬱なロンドンの霧が似合うようになっていた。